「あの…す…すいません。今更なんですが、今日、お金持っていないので…」



やっちまったぁ…!

全然しっかりじゃない!!

これじゃあ、なよなよだ!!



「何を気にしとんの。俺が払うに決まってるやん!最初っからそのつもりやったし!」

「え!それはさすがに悪いので、自分はこれで…」



口で勝てないなら、行動に出るしかない!

そう思い、自分は立ち上がる。



「そんなに俺のこと嫌いなん?」



そう言われると同時に、数歩歩き出していた自分の腕を掴まれた。

この人、自分より年上のくせに上目遣いがよく似合う。なんでだ?

しかも、なんかかわいい。



「なあ、もしかして俺のこと、本気で嫌い…?」

「そっ、そんなことっ…!!」



慌てて弁解する。

だってこの人、「気ぃ使わんと、正直に。」なんて言いながら、切なそうに笑うから。

…というより、今は好き、嫌いの問題じゃなくて、金銭の問題です、先輩!



「悪いのは、いきなり誘った俺やし。ごめんな。金が気になって嫌なんやったら、帰ってもええで。
でも、俺のことが嫌じゃなかったら、俺の前に座り直して?」



そんな言い方なんてして。

なんてずるい人。

人使いが上手だから、いろんな人の攻略法を知っているんだわ。

他の断り方が思い付かず、結局折れてしまった。



「では、次回、何かお礼をさせてくださいね」



自分が席に戻った理由は、せっかく誘ってもらった、
ここまでついてきておいて帰るだなんて、よく考えればとても失礼だなって思ったから。



「くくっ、つれた!」



角野先輩は愉快そうに笑いだした。