「咲宮…あ!アミ?あの子元気でおもろいし!」

「違うな」

「えー…。じゃ、もしかして咲宮 ホノカ?まさかそうやとしたら、栗山の趣味疑うわ。うぇっ」

「違うで」

「えーっ、他誰おったっけ。咲宮…咲宮タケシ?咲宮ケンノスケ?!まさかの男好き?!」

「違う。ほんま、かわいそうなもんやで。毎日挨拶しても無視される。本気の告白しても無視される。いつもヘラヘラしとる栗山の、辛そうな顔なんべん見たか」



ありえない。

頭に一つある予想が浮かんだが、ありえるわけがない。



「あいつ蝋人形みたいで、気味悪いやろ。俺は大嫌いなんやんな」



蝋人形と大嫌いという単語である予想が、確信へと変わってしまった。



「嘘やろ…?栗山の好きなんて…咲宮 は―



こわくなって、その場から勢いよく逃げ出した。

まだ、日誌は書ききれていない。

よくもここまで聞き耳を立てられたもんだ、と自分でも思った。

もし自分が普通の子で、友達も何人かいて、常に一緒に行動して。

勉強もできて、親切な明るい人間で。

そして、運動オンチでなかったなら。

普通に喜べたのかもしれない。

でも、自分は見ての通り根暗で、人と意思の疎通もまるでできない人間で。

そんな自分が毎日当たり前の様に傷つけてきた大切な人。

栗山くんは大分前から自分にとって、大切な人だったんだ。

それに今さらになって、逃げて何をしているんだろう。

とにかくただひたすらこわい。

自分があの人に対して、してきてしまったことが今わかりだした。
平気であの人を傷つけていた自分が自分でとてもこわい。

辛い想いを毎日していたのは、自分じゃなく、あの人の方だった。