お互い目を合わせたまま、しばらく止まっていた。

すると、角野先輩が口を開く。



「これで気まずくなったからって、俺のこと、避けやんといてほしい」



真っ直ぐな視線をこちらに向けて、先輩はそう言った。



「今まで通り仕事も一緒にしていきたいし、話もしたいし、笑い合いたいし、ふざけ合いたいし」



膝の上に置いてある自分の手に、先輩は手を重ねた。

あまりに突然で、自分は驚き、息を吸い込む。

先輩は少しはにかみ、言う。



「…これは、俺からのお願い」



それは、自分もさっきまで恐れていたこと。

また気まずくなることだけは嫌だと思い、あんなに必死にフォローを入れようとしていたのだから。

フォローもこの人によって、遮られたけれど。

先輩のお願いは、自分にとってはお願いも何も、自身としても望んでいたことだった。