「もう。部長の話、長いわー」

「ちょっ、聞こえますよ」

「ええの、ええの。部長と俺の仲やし」



自分は苦笑いを返しながら、余所見をした。

その時、ステンレス性の鍋に、自分の手が当たった。



「…っ!」



ながらなんたらは、いけないと言うじゃないか。

熱さの痛みを堪え切れたものの、体が僅かに跳ねる。

とにかく何も無かったのを装い、先輩の前に取り分けた器を置く。

すると、すぐに自分の手が、おしぼりに包まれた。



「さっき熱かったやろ。綺麗な手、怪我したらあかんで」

「いや…そんな大じょ…

「ほらまた。こういう時は、ありがとうやろ?」



こんな時にもいっそ笑っていてくれたら、楽なのに。

そんな優しい表情を向ける。

ああ、何やかんや言っていたって、ほら、敵わない。