何の前触れもなく、森緒ちゃんの一人演劇が始まった。



「あのな私が『私は、一緒におると楽しいの!別れやんといて!後生やから、これからも一緒におってよー!』って言ったら…

『誰も別れたいなんて、言ってない』

『え』

『嫌い、とか言われて、ショックだったんだよ』

『……ほんとにごめんな。あんたのことが嫌いなんじゃなくて、上から目線の男が嫌なんよ…
なんか子どもっぽくて、ごめん』

『いーよ。俺、まだ子どもだし。…俺も気を付けるよ。ごめん』ってさ!」

「よくわかった。ありがとう」



うふふー、と森緒ちゃんは上機嫌に笑う。

幸せそうで何よりだ。



「よくよく考えたらな、私の彼氏って、今まで何があっても『嫌い』とか『別れよう』なんて言わんかった。
最初っから、ちゃんと信じてあげやな、あかんかったんやな」

「彼氏さんも、森緒ちゃんもいい人同士やね」

「ふふっ。ありがとう。でも、華もいい子やで。
ちゃんと華に言われた通り、後悔しとった気持ち、ぶつけてきたよ。やから、元に戻れた」



そう言ってくれた森緒ちゃんの表情を眺めた後、よく冷えたウーロンハイのグラスを手に触れ、見つめた。

自分まで、心が満たされた。

何よりも、相変わらず饒舌なのが、彼女がすこぶるご機嫌な証拠である。