何故って?

そんなの決まってる。

そいつははっきりと言って…異常に足が遅い。

本人は必死な顔して、多分走っていると思われる。

きっと真剣に違いない。

俺にはそう感じとる事が出来た。

でも、周りの奴らは、そうは思わなかったらしい。

その時から、そいつは、『牛』なぞと呼ばれるようになっていった。

そのあだ名はあいつの走る姿からか、どいつもこいつも振り返っては陰口を言っている。

正直、どいつもこいつもくだらねぇ。

でも、小心者の俺は一緒になって笑っていた。

内心で思っていることを誰にも悟らせない様に。

1人につくという事はとても出来なかった。

なんせ量が多すぎた。

まだ中学生活が始まったばかりであと3年もある。

あんだけの人数を敵にまわしたら、俺はきっとやっていけない。

それが俺の確信した答えだった。





でも今思えば、あの子はそんな世界で生きてきたんだよな。

たいしたもんだよ、チクショー。





その翌日。

真っ先にそいつの事をからかいにいったのは、俺の友達である水川翔一郎だ。

後に組まされる同盟のリーダーになる奴だ。

こいつは俺と同じ野球部の仲間で、常に一緒にいる気がする。

そんな水川は今、わいわいとみんなが騒ぐ休み時間に机で静かに本を読んでいる咲宮 華の邪魔をしている。

咲宮の表情は嫌そうというよりは、正直めんどくさそうだ。

なんだか、全力でアホをかましている友人の姿を見ていられなくなり、俺はその2人に近づき、間に入る。



「おい、水川。お前、馬鹿じゃねぇの。やめとけよ」



しかし、咲宮という奴は助けに入った俺に向かって、睨みつけてきやがった。

目と目が合ったその時、俺の心臓は状況に合わず、おかしなこえを上げた。



『ドキッ』



…?おいっ、ちょっと待てって!