お互い、目を合わせたままで、どちらも譲らない。
大きく溜息を吐く。
溜息を吐いたのは、森緒ちゃんの方だった。
『あのさー。あんたはまだ稼ぎ無いやろ?』
『バイトしてる』
『とにかく学生には、払わせれやんから。私がいつも通り、支払いますっ』
『でも、いつも悪ぃし…』
「いつもの私なら、ここで『気にしやんといて!!』って笑って言って、終わるはずやのに」と、今にも泣きそうな笑みで森緒ちゃんは言う。
彼氏の方が、少しずつ引き始めた頃。
何を思ったのか、森緒ちゃんが発してしまったのは、あまりにも噛み合わない、唐突な台詞だった。
これさえ言わなければ、抑えが利いたはずなのに、と森緒ちゃんは後悔をしていた。
『私な、男に奢られるの、嫌いなん』
森緒ちゃんがそう言うと、彼氏の動きが止まり、表情が強張る。



