少し前にあった「過去」の感情は忘れて、なにもかもなかった風に振る舞える大人になったのか、自分たちは。

いや、それは違うと思う。

そうではなくて、少なくとも自分は今、舞い上がっている。

気持ちはまだ、どこか幼いままだからこそ、驚きと好奇心が先立っているのだろう。

じゃあ、今、栗山くんはどんな想い?

本当のところは、無理をして話してくれているのかもしれない。

その考えが浮かんだ瞬間、自分の中のお祭り騒ぎは、一気に静まってしまった。



「大丈夫?どうかしたんすか?体調悪いとか…」

「いえ、なんでもな―

「ごめん、ごめん!遅なった!!おはよう、華ちゃん!!」



会話の最中で、毎日聞き慣れた声が割り込んだ。

栗山くんの後方で、遅刻してきた角野先輩が立ち止まる。

すると、栗山くんは、後ろに立つ角野先輩の方を振り返り、軽く会釈をした。

歩きだした彼を、先輩は会釈を返しながら、目で追っていた。