発表資料にメモを追加したり、他社の資料にも目を通しておく。

お、自動車会社のディーラーも来てる!

学生時代、父親の関係で何気に憧れていたんだよなあ。

目線は、紙に向けたまま、感覚だけでボールペンを机の端に置いた。

その時、偶然にも斜め前で賑やかに会話をしていた男性の一人が、立ち上がった。



「すいません。ちょっとトイレ行ってきます」



歩き出し、こちらに近づいてきた時たまたま、その社員さんの手が自分の座る机にあたった。

その手に引っかかったのか、その拍子に自分のボールペンがカシャン、と音を立てて、床に転がる。

すると、トイレに向かおうとしていた彼は、素早くそれを拾い上げた。



「すいません!」

「あ、いえ。ありがとうございます」

「え、あれっ?」



ボールペンを見つめながらお礼を言ったのだが、間の抜けた反応が返ってきた。

自分は不思議に思い、顔を上げる。

相手は口をパクパク、とさせていた。

そして、何かを探求するように、こちらをじっと見つめていたのだった。

自分はというと、相手の顔を目に入れた瞬間に目を見開いた。

驚くというよりは、信じられなかった。

まさかこんなところで、会ってしまうなんて。

予想もしていなかった。

その相手とは、夢にまで見た、栗山くんだったのだから。

自分は、ただ無言で目を見開いたまま、氷のように固まってしまった。

彼は「あぁ…あ…」と声を震わせている。






第3章*第7話に続く。