「青山、先に戻れ。」

「はい。」


どうやら帰りは一人らしい。


「名札は受付に返せよ。」

「わかってます。」

「青山、気をつけて帰れよ。」

「はい。」


渡部さんが水越さんと会議室を出ていく。私も席を立ち上がろうとしたが―――


「あっ、青山さん、少しだけ話があります。」

「えっ?」

「先程の会議で伝え忘れていた事が。」

「あっ、はい。」


岡崎部長へと近づいていく。他の社員は既に会議室を出ていったようだ。

机に座る岡崎部長の隣へ立てば、岡崎部長も立ち上がり背の高い部長を見上げた。

ニヤリとする部長に嫌な予感がする。


「岡崎部長、伝え忘れていた事とは?」


早く帰りたくて口を開けば、クスクスと笑い始める部長に一歩後退りをした。

その肩を部長に掴まれ、ビクリと体を揺らした。


「逃げんな、はな。いや、一花か。」

「…………。」

「はな、覚えてるか?」


その名前に鼓動が速まっていく。