蒼大さんの舌打ちが聞こえ、かなり苛ついているのが伝わる。


「誰にも渡す気はないから。行くぞ、一花。」

「あっ、うん。」


渡部さんに背を向けて、蒼大さんの車へと向かった。

私達の背中に渡部さんの声が届く。


「俺も退かないから。青山、今、言わせて。俺は青山が好きだ。これだけは覚えておいて。」


小さくなっていく渡部さんの声が胸を締め付ける。だって渡部さんの想いは私には叶えてあげられないから。


「………。」


無言のまま、蒼大さんの車に乗り込んだ。

渡部さんの傷ついた顔は見たくない。

もう誰も傷つけたくはない。

だけど渡部さんの想いは叶えてあげられない。


「一花。」

「ん?」

「アイツの為に泣いてるのか?」


静かに動き出した車窓から外を眺める。窓に反射した私の頬には涙が流れていた。


「もう誰も傷つけたくはない。」

「ああ。それはアイツに望みはないって事か?」

「………うん。」


頬の涙を手で拭っていく。

窓に映る私は不細工だ。