ロビーには渡部さんが待っていた。

突き刺さる視線が痛すぎる。その視線は繋がれた手に向けられているからだ。


「ちょっと蒼大さん。」

「何?」

「手を離して。」

「何で?」

「ここ会社です。」

「知ってる。」


このやりとりしかしてない。

渡部さんが立ち上がり近づいてくるが、明らかに不機嫌なのが見てわかる。

目の前で立ち止まった渡部さんが凄く睨んでる。

勿論、私ではなく蒼大さんを。


「岡崎部長、場所を弁えてください。」

「今日は一花を借ります。帰社しても定時退社の時間でしょうから。」

「今日の資料作成が残ってますので。青山、今日中に作成できるな。」


渡部さんの視線が突き刺さる。

いつもより断然に怖い。

私が口を開く前に蒼大さんに遮られ、口を噤むしかなかった。


「明日は土曜ですし、必要なら月曜でも間に合いますよね?」

「………青山は帰社しないつもりなのか?」


蒼大さんを説得するのを止めた渡部さんが私に聞いてきた。

直属の上司を怒らせてまで残る筈は―――