ふたりの彼女と、この出来事。(旧版)

 夜。僕は一人でダンロの扉を開けた。

「おや、お一人で?」

と珍しそうに尋ねてくるマスター。

「ええ」

頷きながらカウンターの奥の席へ座る。

「何か飲まれますか」

マスターの問いに暫く考えた。

「最初にミライが飲んだ、強いヤツを」

答えると、マスターが一瞬、間を置いて返してきた。

「本当に強いですが、それでも?」

「ええ。いいんです」

酒で気持ちを紛らわせたい。そんな気分。

「…それでは」

とマスターが慣れた手つきで差し出してきたグラスの酒を、クッと喉に流し込んだ。

「くーっ…」

アルコールが体を廻って全身がカーッと熱くなると同時に、心にも熱いモノがカッと込み上げてきた!

(クソッ!)

どうしてこうなるんだ。広海君を取られてミライまで取り上げられて、結局僕の手元にはなんにも残らないじゃないか!

(こっちの気持ちはお構いなしか!)

所長も所長だよ、結局は自分の実験が一番大事なんじゃないかっ!

(マッタク!)

苦労して広海君とミライと過ごしてきた、今までの時間は何だったんだよ!

(結局は、)

僕はこの一年間、あの研究所に弄ばれただけだっていうのか!

「クソッ!」

握り締めた拳に力を込めて、皿が跳ねる程カウンターをダンッと叩いた。叩かずにはいられないっていうんだ!