「そんなことない。これから良い関係を築いていくためにも、ちゃんとしないと」
真剣に、そして誇らしげに言うケイは私が何を言おうが、きっと耳に入らない。「やっぱ正装は制服よりスーツの方が良いかな?」などと、浮き足たっている。
「うん。もう、ケイのしたいようにして」
呆れるのも馬鹿馬鹿しくて諦める。
娘が不良の彼氏を連れて来るより、スーツで結婚の申し込みをしてくる彼氏の方が幾分マシであるのは確かだ。
気が触れたのかと心配はされるかもしれないけれど。
私は彼に構わずパンケーキを無心で食べる。
「ハスミって好き嫌いしなさそう」
アイスコーヒーを一口含んで彼が言った。
「苦手なものはあるよ。極端に辛いものとブラックコーヒー。あ、でもノンカフェインの水出しコーヒーはそのままでも飲める」
あれは今みたいな暑い時期に飲みたくなる。特に外出から帰ってすぐの、エアコンが本気出せてない暑い部屋でキンキンに冷やしたやつを。
「あぁ、確かに美味しいよね。サラもよく作ってて、冷蔵庫には常に置くようにしてる」
「うちもそう。ていうか、ケイは甘いものとか食べないの?」
私の目の前にあるパンケーキを指差すと、ケイは「いや、普通に食べれるけど……」と言って、少し考える素振りをする。
「物によるかな。俺、生クリームとかが好きじゃないから、ケーキよりもマドレーヌとかクッキーとかの焼き菓子が好き。プリンでも、牛乳がたくさん使われているやつより、卵の味が濃い固めのやつが好きだし」


