【夏菜side】


 学校祭も終了し、7月模試と呼ばれる学力テストも乗り切り、あとは夏休みを待つだけ。

 一般生徒が消化試合をこなしている間、執行部は次の行事にむけて動き出していた。

 それでも、学校祭を経験した後では比較的穏やかな日々で、私は私の目的を達成することに集中できていた。


 実希の周りにいる男子は、意外と少なかった。
 皆噂を知っているためか、自ら深い仲になる人はいないらしい。

 しかし、高校に入ってくるのは市内の中学校出身者ばかりではない。
 その噂を知らない人も少なからずいるのも事実。
 ほどほどに大人になった男子同級生達は、口を閉じることを覚えたらしい。

 市外から来ているクラスメイトの男子に「本野実希って知ってる?」と聞いても、「違うクラスでしょ? 知らないにきまってるじゃん」と、当たり前といえば当たり前の答えが返ってきた。


 ということは、実希の周りにいる希少な男子は、よほどの物好きか、実希を人間的にあるいは恋愛的に好きな人のみというわけだ。
(もちろん、普通に生活していて会話するのは除いて)

 その中で、私が目をつけたのは、実希と同じクラスの男子。
 名前は『桐下』。
 廊下ですれ違ったときに確認した。


 一応、隼人に確認したら、実希と同じ小中学校には通っていない。おそらく高校で知り合ったのだろう。

 実希に近づく女子は、男子以上に少ない。
 実希の近くにいるというだけで、私からすればとても目立つ存在だった。

 桐下君は雰囲気だけは、クラスのわいわい系男子だ。
 実希への話しかけ方も見た目も、クラスの中心にいて仕切っていくようなタイプに感じる。

 しかし、実希のクラスの前を通るとき、私は必ず桐下君を確認していたが、1度もはしゃいだりしている様子を見たことはなかった。

 ただ、実希と話しているところは何度か見かけた。


 純粋に実希のことが好きなのか?
 それともおとなしめの男子を、実希が狙っているのか?



 疑問は解消しないまま、私は、消化試合中の生徒に混じって息を潜め過ごしていた。


 進展がなくとも、夏休みは迫ってくる。

 焦りを覚え始めてきたある日、予想だにしないチャンスが巡ってきた。