「彼氏作ってるヒマなんてないし」

平静を装っていても、心臓はバクバクしていた。

生まれて初めてのシチュエーション。

これまで意識したことのなかったタカノリの存在が、違ったものへと塗り替えられる瞬間を、確かに見たと思った。

「なら良かった」

「良かった……って?」

「二人きりでこうやって歩いてたら悪いじゃん。彼氏がいたら……さ」

「なんだ、そういうこと」

「なんだ、って……もしかして俺が愛の告白でもすると思った?」

「思う訳ないでしょ」

強がっていたけれど、心の奥は経験したことのないドキドキでいっぱいだった。