「……なっ」
え?
隣から、少し苦しそうな声が聞こえて、彼を起こさないように、もう一度耳をすます。
「……愛菜」
─────マナ。
確かにそう言った。
由良先輩は、全然起きる気配がなくて、それが寝言だったのがわかる。
マナさん?それって……。
今まで熱を帯びていた身体が徐々に冷めて。
今度は、嫌な感じで心臓が鳴る。
『……ずっと好きだった人に、振られたんだ』
先輩、昨日そんなことを言っていたけれど、その人が、その、愛菜さん、なのかな?
昨日、由良先輩に好きな人がいたという事実を聞いてからというもの、どこか胸がざわついていたのだけれど。
今この瞬間、どうしてざわついているのかがわかってしまった。
本気で恋をしない由良先輩。
それは単に、特定の女性だけを相手にするのが先輩の性に合わないだけなんだと思ってた。
だからこうやって付き合えるようになっても、割り切れていたつもりだった。
でも、違った。
先輩には、大切な人がいたんだ。
そして、先輩は、今もその人のことが……。