「違うんだって、これはーー」
何とかごまかそうと声を上げたとき、握っていた携帯電話がブルブルと震えた。
ーータイミングが悪すぎる。
結局のところ、夢ではない。昨日のことは全て現実だったのだ、と振動がそう主張しているかのようだ。
「返さなくていいの? 樹くん、待ってるんじゃないの?」
「……」
何事もなかったかのように携帯をそっとポシェットにしまおうとしていたら、実名入りで突っ込まれてしまった。
ーー私って、そんなに分かりやすいかな。
ため息をこぼして、そっと画面を見る。昨日改めて連絡先を交換したばかりだというのに、そこは既にやり取りしたメッセージで溢れかえっていた。挨拶とか食べたものの報告とか、そのどれもが他愛もないことだけれど、私にとってはひとつひとつが愛おしい。
そんな中、今届いたばかりの真新しいメッセージは私の胸を簡単にさらった。突然真剣な雰囲気を出されると、おかしいくらいドキドキしてしまう。そういう私のことを分かっていてからかう、昔からの樹の得意技だ。
『来年もその先もずっと、佳奈に笛を聞かせるから。俺の笛、好きだろ?』
一体その自信はどこから来るの。目の前にいたら照れ隠しに突っ込みのひとつでも言っているところだけれど、今回はこちらもメッセージで応戦することにした。次の休憩時間に携帯を見た樹が、驚いてくれることを密かに期待して。