「ううん。

俺はこうやって、菜緒ちゃんに会えただけで幸せだよ」




優しすぎる樹君の言葉が、あたしの弱い胸を痛めつける。

あたしは樹君を傷つけたのに、樹君はそれを怒ったりしない。

いっそのこと、怒ってくれれば楽になるだろうに。




身を寄せ合うあたしたちの間に、沈黙が訪れる。

ただ鼓動だけが速く、ドクドクと鼓膜を突き動かした。




樹君に会えば分かった。

後戻り出来ないほど、樹君に惚れていたのだと。

樹君に会った瞬間、止まっていた時間を取り戻すかのように胸が高鳴り身体が熱くなった。





「樹君……」




あたしの声は震えている。




「あたし……樹君のこと……」





好きです。




そう言おうと息を吸い込んだ時だった。