「矢沢君。それって、あなたが下手だったんじゃない?」
「そうかもしれません。
だってそいつ、処女だっから。
それ以来処女は嫌いだ。
っつーのは置いといて……」
矢沢さんはあたしを見た。
いつもの強い眼差しだった。
矢沢さんとはいえ、イケメンに見つめられると落ち着かないあたしは、わざと目を逸らす。
そんなあたしに、矢沢さんは言葉を続けた。
「俺は今だって思う。
そいつに会えないかって。
ふらっと出てくるんじゃないかって。
でも、ものごとには切り替えも大切だろ?」
「……はい」
「俺は三十目前で恋人すらいない。
そろそろ前に進みたい。
だから川口も負けるな。
負けずに前に進めよ」



