調剤室に、一瞬沈黙が舞い降りる。
静かな空間に、あたしが軟膏を練る音のみが響いていた。
やがて矢沢さんが口を開く。
「川口、お前は喧嘩売ってんのか」
もちろん喧嘩なんて売っていない。
「俺だって、引きずってる過去の恋くらいある」
予想外のその言葉に、
「「えぇーッ!?」」
南さんとあたしはハモっていた。
美女な患者といつも談笑しているチャラチャラ矢沢さんが、恋を引きずっている!?
その言葉に耳を疑うばかりだ。
それでも矢沢さんは訂正せず、
「何がえぇーッ、だ」
ぶっきらぼうに吐いて、勝手に話を始めた。
矢沢さんなんかに興味なんてないが、その話を聞いてしまった。



