「菜緒ちゃんに解説しようと思っていたのに、試合に夢中になって何も出来なかった」
相変わらず優しい樹君に、あたしは告げていた。
「前半は相手に押されていたよね。
上手く攻撃のリズムが作れていないっていうか。
だけど、途中で交代した戸崎選手のシュートはさすがだったね。
惜しいシュートもあったけど、パスもシュートも正確で、まさに『魅せるサッカー』が出来る選手だなぁなんて思ってしまったよ。
後半は持ち直してきたかな。
ディフェンスの斎藤選手がフル出場でかなりの運動量だったけど、危ない場面を何度も止めていた。
でも、やっぱりミッドフィルダーが……」
そう言って、はっと息を飲む。
あたし、樹君になんてことを言おうとしていたのだろう。
樹君本人が、自分の存在の大切さを一番分かっているだろうに!



