「行ってきまーす!」

浅野けい、高校二年生。
私はいつものように、7:10に家を出る。

「行ってきまーす」
道をはさんだ隣の家から、同じ時間帯に私の幼なじみが出てくる。

「よ、けい。行こーぜ。」
「おはよう、うん。」
特に、一緒に学校に行くってあらかじめ決めてた訳じゃない。
でも、幼なじみだからなんとなくって感じ?
もし、私に彼氏ができたら、そりゃあ一緒に行って、一緒に帰って、手を繋いで歩いたりしたい。

(でも、彼氏いないし!!!)

それは、彼も同じ気持ちだった。
「はぁ、なんでいつまでも幼なじみと。」
「そんなこと言うんだったら、登校時間ずらせばいいじゃん。」
「は?お前が変えろよ。」
「私は嫌よ。この時間がいいの。」

それには理由がある。
7:35の電車の一車両目にいる彼を見たいから。
彼とは、同じ学年の森 純也くん。
森くんは私が中学3年生の時に、初めて見て好きになった人。


私がハンカチを落とした時の日の事だった。
(あれ?ハンカチがない…。誕生日に友達がくれた大切なものなのに…。)
私は必死になって、教室を1人で探していた。
「ない…ない…。」
廊下から、バタバタと足音をたてて走っている音が激しく耳に入る。
(どこに落としたんだろう…。)

バンッ!!!
「っ!!!」

ドアを勢いよくあける音が聞こえてそっちを振り向いた。
そこには男子が汗をかいて息切れをした状態で立っていて、私を真っ直ぐに見ていた。
「え…?」
彼は私に近づいてくる。
私を見る視線は変わらない。
「……。」
「…これ。」
彼は、私にハンカチを差し出した。
「これっ…!」
「これ、お前のハンカチだよね?ゴミ箱、入ってた。」
「ゴミ箱!?」
「うん。でも、お前がこのハンカチ大切そうにしてるの、この前見たから、絶対捨てるなんてこと、ないだろうと思って。ずっと、探してた。」
(私のために…?)
嬉しくて、涙が出そうになった。


あの日から、私は森くんに恋をしている。
だから、私は登校時間を変えたくなかった。

「やだよ、変えるのめんどい。」
「…別に、一緒に行くのが嫌って訳じゃないんだけどさっ!」
そう言って、私は朔夜の肩を叩いた。

「いってぇ!!」
「目ぇ覚めたでしょ!あははっ!」