目の前で勢いよく床に叩きつけられたバレーボール。

後になって思い返せば、
あの時、私は既に恋に落ちていたのかもしれない。

転がってきたボールを拾い彼に渡すと、




「あぁ、助かる。

女子バレー部はあっちだぞ」




女子バレー部入部希望者と思われたのか、

そう親切に教えてくれた彼。

なぜかは分からないが


今しかない。


そう思った私。

普段なら初めて会った人と話すなんて私が出来るわけがないのに。

なぜかあの時は自然と言葉が出てきていた。



「あ、あの!名前、聞いても良いですか?」


「え?は?

えっと、2年の一ノ瀬裕也。…お前は?」


「あ!い、いいいきなり、すみませんでした!1年の高槻環奈です!では!!」



明らかに、いきなりなんだ、という顔をされたのをよく覚えている。

彼も気を使って、私の名前を聞いてくれた。

これが先輩との初めて会話だった。

後で聞いたら、みんなが騒いでいたというカッコ良い先輩は、3年生の…名前を思い出せない先輩のことだったらしい。

美月ちゃんの彼氏が2年生の男子バレー部の恵吾先輩だったため、その後、私が一ノ瀬先輩と話す機会をたくさん作ってくれ、

一ノ瀬先輩のことが好きだと気付くのに時間はかからなかった。