窓の外では雪が降っている。
しんしんと、などと品の良い降り方ではない。
ごうごうと風と共に雪が窓を叩く。
どさどさっと屋根から雪が落ちる。

「うへぇ……。雪掻き嫌だなあ」

明日行われるであろう雪掻きに早速悪態をつく。
雪掻きは疲れる。
終わったあとも雪捨て場に雪を捨てにいかなくてはならないし。面倒だ。

「月子、夕食ができましたよ」

階下から祖母の声がした。
「はーい」と返事をして、部屋から出る。
途端、とんでもない寒さに襲われた。
廊下に暖房置きたい。
年金暮らしの祖母と二人暮らしだからそんなことは言えないけれど。

「月子?」
「はいはーい。何でもないですよー。すぐ行きまーす」

祖母が中々降りてこない私を心配して声をかける。
適当に返事をして、寒い廊下と階段を通り抜けた。

一階に降りてもすぐには夕飯にありつけない。
階段と居間が逆方向だからだ。しかも祖母の家は広い。
階段を降りて、百メートル近く歩いて、やっと夕飯が食べられるのだ。

「今日の夕飯は何?」
「玄米と味噌と少しの野菜ですよ」
「それは宮沢賢治でしょ?」
「冗談です。焼き魚とお漬け物、あとは、なめこの味噌汁です」

祖母はつらつらと今日の夕飯を述べる。
成る程、焼き魚か。だから香ばしい臭いがしたわけだ。

私は何時もの定位置に座り、その向かいに祖母が座る。
二人して、手を合わせて「いただきます」と言って、夕飯に手をつけた。

「準備はできましたか?」
「大丈夫。必要なものは用意した。足りなくても向こうならコンビニで買えるでしょ」
「そうですか……。決して向こうに粗相のないようにするのですよ」
「ん、大丈夫」

祖母と私が話しているのは、私の年末年始の旅行についてだ。
……旅行、と言っては少し間違いがある。
正しくは『招待された』だ。

私の血筋はどうやらそこそこ尊いもののようで、年に一回、本家の方から年末年始の宴に招待されるのだ。
しかも今年は重大発表つきだと言う。
例年より更に面倒な酒盛り大会になることは目に見えているが、私の立場上、断ったら最後、私への援助が切られる。

しかたなく、こうして父方の祖母に『酒盛り大会への招待』を『年末年始の旅行』と言い換えて、一人で本家に行くわけだ。

「……はあ」
「どうしました? 美味しくなかったですか?」
「いや、何でもないよ。味噌汁美味しいね」

祖母の夕飯は美味しい。悪いのは本家だ。

重大発表なんて本当は重大でもなんでもないのだろう?
どうせ、本家の犬に子供が生まれましたから誰か引き取りませんか? とかだろう。

実際、五年前そうだったし。
私に発言権はないので引き取れなかったが、犬は弱いものいじめが好きな人に引き取られてった。

……犬のその後は恐ろしくて聞いていない。