「良かった、ティアラもサラちゃんも無事か!」


愛娘の無事を確認した彼は、安堵の表情を浮かべていた。


私は半泣きになりながら、唯一この街で信頼できる人物のローブに縋り付く。

「ライアンさん、これは一体、どうなってるんですか?! 私、もう、何がなんだか……」


「俺にも、何が起こっているか分からない。とりあえず、警察に通報した方が良さそうだ。あと、救急車にも……。なぜだか分からないが、さっき怪我した肩の出血が止まらないんだ。いてて、……」


「……パパ、けがしてるの? ねぇ、ママはどこ?」


玄関の扉が、バンバンッと何かで殴られているようにけたたましく軋む。


「大丈夫だよ、ティアラ。こんなの、かすり傷さ。ママは今、近所の人にパパが怪我したから、助けに来てって言いに行ってくれているよ」

ライアンさんは目尻を下げる娘に対し、気丈に振る舞っていた。


玄関からは、ミシミシッと嫌な音が。



娘に背を向けて寝室にある電話から警察に通報を入れようとするライアンさんを気遣い、私はティアラをリビングの隅っこに誘導させた。


そのか弱い身体を、すっぽりと腕で包み込むようにして、食器棚の影に一緒にしゃがみこむ。


「大丈夫だよ、もうすぐママも帰ってくるからね」


けれど、幼子を安心させるためのセリフが、恐怖で震えてしまう。


怖い、今すぐどこかへ逃げ出したい。


そんな感情が、胸から込み上げてくる。