「なぁに? サラちゃ、……キャァァァァ!!」


不規則に揺れていた血塗れの男は、振り返ったミッシェルさんにのしかかり、その喉元を歯で切り裂いた。


「ミッシェルさん!!」

自分を慕ってくれていた女性の喉からは、噴水のように血が吹き出る。


「あ、ああ……」


人が人を、襲って食べている?


(なんで? どうして?)



腰が抜けて、その場に座り込んでしまった私だったが、その目は嫌でも大好きだった人物の死から離すことは出来ない。


窓枠を掴む手が、小刻みに震えている。


まるで、蛇に睨まれたカエルのようだ。



「ミッシェル、どうした?! ……なんだ、お前は?!」


妻の悲鳴を聞き、夫のライアンさんが外に飛び出して来た。


強烈な拳で妻を殺害した男の顔面を殴りつけ、血溜まりに伏す彼女の身体を抱き抱える。


「おい、ミッシェル、返事をしろ!なぁ、 ……嘘だろ……、おい……」


悲痛な声が胸に刺さり、私は視線を床に落とした。



重力に負けた涙が、木の床に零れ落ちる。


「どうして、ミッシェルさんが……」


愛する者の死を嘆くライアンさんだったが、その声が何故かすぐに歓喜の色に変わった。


「ミッシェル、生きてたのか!」


(……えっ、嘘? あの怪我で、生きてたの?)



驚きつつ顔を上げると、眼下には……不気味な動きを繰り返しながら夫の前で立ち上がる、ミッシェルさんがいた。


口元からは泡を吹かせて、噛み付かれた首からは出血し、白目をひん剥いている。


それは数分前の彼女とは全く真逆の、恐ろしい風貌で。