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「サラちゃん、今日はもう店終いするから、先に上がって良いよ」

「はい。おじさん、今日もありがとうございました」


日の落ちた薄暗い外の景色を、カウンター越しに店内の窓から見つめる。


……私の名前は田中 さら。


日本からこのゴーンシティに3カ月間、地元の文化について勉強をしに来ている、大学1年生だ。


今回のホームステイ先は、若夫婦で小さな酒屋を経営されている。


場所は、ゴーンシティの商店街のど真ん中に位置している。


「サラちゃんが此処に来てくれてから、本当に賑やかだ。ずっといて欲しいくらいだよ」


旦那さんのライアンさんは、洋画によく出て来そうなくらいにムキムキのマッチョマンで、前に付けられた黒いエプロンが小さく見える。

「貴方、バカなこと言わないで。サラちゃんは日本に帰って勉強に恋に励まなきゃいけないんだから」

「もー、おばさん。私、日本に彼氏いませんってば」


奥さんのミッシェルさんは、ふくよかで短髪の、気さくで明るい人だった。

「大丈夫、サラちゃんくらいのキュートさがあれば、彼氏なんてすぐに出来るわよ」


そんな彼らの人柄を慕ってお酒を買いに来る人も多い。


カントリーな雰囲気の店内には、地元で採れた葡萄や林檎から作られた果実酒や、芳醇な香りのするワインが売られている。


温かな彼らに囲まれて勉学に励み出してから、早2ヶ月が経とうとしていた。