次の日から私は、健斗と一緒に帰るのを避け始めた。
「あ、吉見さ…」
スッ
会っても無視、話しかけられても無視。
それが当たり前になった。
「唯ちゃん。いつも三間くんと一緒に帰ってるのに、最近私達と帰るなんて、なんかあったの?いいの?三間くん、あそこにいるけど…。」
友達はいつもそう言う。
「いいの、もう。」
(どうせすぐ、呆れて帰るよ…。)
いつもそう思っていた。

「……」


一週間後。
「みんなに、お話があります。三間くんは、家庭の事情で、オーストラリアに転校することになりました。」
健斗は先生の横に移動した。
みんなが驚く中、一番驚いたのは私だった。
(行くって、決めたの…?)
ポカンと口を開けて、怯えたような目で健斗を見る。
目が合っても、私を逸らすことはなかった。

「や、やだ…行か、ない…で…!!」

下を向き、誰にも聞き取れないくらいの声で言った。
その時、1粒だけ、目から涙がこぼれた。

「…ごめん。」

健斗は、静かな声でそう言った。
私は驚いて、健斗の顔を見る。
(え?き、聞こえた、の?健斗は前にいて、私は後ろから2番目の席。こんなに小さい声で言ったのに…?)
私はいつか言った、彼の言葉を思い出した。

『俺、耳だけはいいんだよね〜』

涙がこぼれる。
(なにそれ、耳、良すぎるよ…。)
こんなに誰かを想ったことはなかった。