秋。
いつものように、私は健斗と並んで帰る。


「ねぇ、吉見さん…。」
「?…なにー?」
それは、突然すぎて、間に受けられなかった一言だった。


「俺、転校するかもしれないんだ…。」


「…え?」
''転校''という言葉が頭の中でぐるぐる回っている。
(健斗が、転校…?)
「…ど、どこに、行く、の?」
「……オースト、ラリア」
「!!!!!」
(オーストラリアって…外国!?)
私は思わず下を向いた。

「俺、さ。まだ、誰にも言ってないんだ…」
「え、えぇ!?わ、私が最初!?」
「…うん。」
(なんで!なんで私が最初なの!?)
好きな人が転向なんて、私には考えられなかった。


「俺、迷ってんだぁ。行くか行かないか。」
「…え、それ、どういうこと?」
坂を下りながら、健斗は話す。
「父さんが、もともと外国で仕事しててさ。でも、次はもっと、長くなりそうなんだ。だから、父さんだけ行くか、家族もついていくか…。」
私は必死になって言った。
「そ、そんなの、行かない方がいいに決まってる!!……じゃん…。」
その言葉が健斗の耳に入ったのか入らなかったのか、健斗は話し続ける。
「俺さ、夢があるんだ!父さんみたいに、外国に行って、人の役に立つ仕事がしたい。」
「え、それって、自己紹介のときに言ってた…。」
「うん、よく覚えてるね。まだ小1なのにって思うだろ?でも、結構まじ。だから、迷ってる…。」

胸が痛い。
好きな人には、大切な''夢''があるというのに、それを壊してしまいたい自分がいる。
(行って欲しくない)
そう思ってしまう。

健斗がこんなに困った顔をするのを、私は初めて見た。
相当、悩んでいるのだろう。

「もし、吉見さんがどうしてもって、言うのなら、俺は吉見さんに合わせ…」
「行けばいいじゃん!」
私は本音を振り切って言った。
「外国に行くの、夢なんでしょ?長住み何でしょ?大人になってもいるかもだし、夢が叶うチャンスじゃん!絶対、行ったほうが、いいよ!」
健斗は、目を丸くして固まっていた。

「…そっ、か。わかった。ありがとう、話聞いてくれて。ばいばい。」
そう言って、健斗は走って帰っていった。
私はその場でしゃがみこむ。

「そんな、転校なんて…。」

こらえていた涙が溢れてきて、止められなくなった。
その瞬間、健斗がもっと好きになって、抑えきれないほどいとおしく感じた。