あれは、私が小学校1年生の時の事だった。

小学校に入学してからの、初めての授業。
私はその日からの2日間、学校を休んだ。
休んだ理由は単純、''風邪''
みんなより遅れて行ったって、すぐ友達は出来るだろう。そう考えていた。


入学から3日目。私は恐る恐る教室に入る。
「おはようございま…」
そう言った瞬間、クラスにいた人はくるりと私を見た。

「あの人誰?」
「あの人クラスにいたっけ?」

私のことを、そういう風に見る人ばかりだった。
(あ…どうしよう…。)


周りを見てみると、絶対誰かと一緒にいて、
仲のいい友達がいる。グループだってできている。
どうやら私は、一歩出遅れたみたいだ。

私はただ、そこで立ち尽くしていた。

「…あれ?誰かと思ったら、俺らのクラスの人じゃん!」
教室の後ろの入口から声がしたと思い、振り返ると、坊主頭で黒いランドセルを背負った男子が私を見ていた。

「え…」
誰だこの人と思いながら彼を見ていると、彼は突然叫んだ。
「あーーー!!わかった!君、初日から2日間休んでた人だ!当たりでしょ、当たりなんだろ??」
私は驚きながらも小さく頷く。
「あったり〜!だからみんな、君のことわからなかったんだー。来て!君の席は〜……あった、ここだよ!」
連れてこられたのは、私の席だった。
(お、お礼言わなきゃ…!)
「あっ、ありがとう…。」
「いいんだよ!バイバイっ!」
彼は自分の席に戻って行った。

(あの人、優しいな…。)

彼の名前を聞こうと思ったが、やめた。
今日はちょうど、自己紹介がある。
だから、その時に名前を知ろうと思った。


1時間目のチャイムが鳴る。
「これから、皆さんに自己紹介をしてもらいます!じゃあ早速…先生の名前、わかる人!挙手!!」
みんな、『えぇー』と騒ぐ。
「七夕先生」
「えー、違うよ!七野先生だよ!」
「あはは、違います。」
「七海センセーじゃない?」
みんなは好き勝手に言い出した。

「七宮菜穂子先生じゃ、ないのかな…。」
私は小さく呟いた。

「じゃあ、正解を言いまーす!正解は、''七宮菜穂子''でした!」
私は驚いた。
「あ…当たって…」
「スゲェ!!!スゲェよ!」

朝の彼が急に立ち上がる。
先生もみんなも、ポカンと彼を見ていた。
「先生、あいつスゲェよ!あいつ、先生の名前当ててたッスよ!しかも、フルネームッスよ!」
私を指さして、彼はそう叫んだ。

「え、そうなの?凄いわね、吉見さん!
みんなも、吉見さん見習って先生の名前覚えてねー!」
『はーい』

私は、不思議でたまらなかった。
(え、なんで、あんなにちっちゃい声で言ったのに…。席だって、結構離れてるのに…)


自己紹介は進んでいく。
私が待つ、彼の番になった。

「三間健斗ッス!将来の夢は〜…教えないッス!よろしくお願いしますッス!」
''〜ッス''と言うのが彼の口癖なのだろう。
なんともユーモアあって濃いキャラだ。


休み時間、私は彼の席に行く。
「ねぇ!」
「うおっ!びっくりした〜、吉見さんか。」
「え、もう私の名前、覚えてくれたの?」
「え?うん。名前覚えるの得意なんだ〜」
「へぇー、凄いね。…じゃなくて!」
私は首を左右に振る。
「なんで私が小さい声で言ったのに、名前言ったの分かったの?」
彼はポカンと口を開けて記憶を思い出す。
「あー、さっきの事か!俺、耳だけはいいんだよね〜」
私は感心して彼を褒める。
「へぇ〜、すごいね!…三間くんだよね、よろしくね!」
「うん!俺の名前、覚えてくれたんだー、
嬉しいな!!」
三間くんは手を伸ばして、私のほっぺたをクイッとつねった。
「!!い、いだい…」
「ハハッ!よろしくね、吉見さん!」
つねっていた手を離して、ニコッと笑った。

(三間くん、男子なのに、優しいな…。)

彼は、私が出来た、クラスで一人目の友達。