5日間、私は健斗と一緒に帰った。
楽しい話を沢山して、笑い合って、同じ歩幅で隣を歩いた。


5日後、彼がオーストラリアに行く日。
帰りは、いつもより沈黙が続いていた。
私は小さな声で言う。

「今日…なんだよね。」
「…うん。」
「もう、一緒に帰れないんだよね。」
「…うん。」

健斗は''うん''としか言わない。
お互いに、気まづい雰囲気は出ていた。
(好きって言ったら、どう、なるのかな…。)

「…………………すき。」

誰にも聞こえないくらい、ほぼ息だけで呟いた。

「えっ?」
「…え?」
(き、聞こえた!?)
顔が急に赤くなる。
頭の中が真っ白になった。

「今、なんて…?」
「え?」
(聞こえて、なかったのかな?)
「なんでもないよ!独り言!」
「そ、そっか。」
私はふぅと息を吐いた。
(よかった…。聞こえてたら、大問題だった。でも、なんでだろう。いつもは、聞こえてるはずなのに。もしかして…)

「吉見さん!これ、あげる!」
「え…?」
健斗は、私の手に1枚のコインを置いた。
「オーストラリアのコインなんだ。お父さんが昔オーストラリアに仕事に行った時に、何枚か貰った宝物なんだけど、吉見さんにあげる!」
「え、いいの?でも、宝物なんなら…」
「いいんだ!吉見さんに貰ってほしいってコインが言ってるから!」
私は、健斗の言葉に涙が溢れそうになったけど、それより先に笑いが出てきた。
「ふふっ、なにそれ!」

2人は笑い合った。
2人で笑い合えることは、もうない。
そう思うと悲しくなって、涙がにじみ出てくる。

「…はい!」
健斗は無理矢理コインを私の手で包ませた。
「……ありがとう!」


別れ道、私は立ち止まった。
「もう、別れ道だ。」
「うん、私、楽しかったよ。」
「うん、俺も。吉見さん、泣くなよ?」
私は驚いて、思わず鳥肌が立った。
「なっ…!泣かないよ!!泣くわけ……」
そう言いながらも、私の目からは涙がこぼれてた。
「結局、泣いてるじゃん。…大丈夫だよ。」
健斗は、私の頭に手をポンと置いた。
ふいに私は、喧嘩して仲直りした日のことを思い出す。
「……」
私は下を向いてて、よく分からなかったが、
健斗も泣いているような気がした。

だんだん泣き止んだ頃、私は口を開いた。
「もどってきて、ね?」
「うん、きっと戻る。吉見さんの事、忘れねぇッスよ」

健斗は、胸を張って前に一歩出た。
「じゃあ、帰るわ!」
「……うんっ!」

私が笑わないと、彼はきっと、悲しむ。
だから私は涙を拭いて、とびきりの笑顔をみせた。
そして、黙って健斗に手を振る。
歩いていく健斗の背中を見送ってから、私は歩き出す。
歩くペースがだんだん遅くなって、涙が出てきた。
(もう、終わりなんだ…。会えないんだ…。)
その時、後ろから急に叫び声が聞こえた。
「ゆ、唯っ!!」
びっくりして振り返ると、息を切らした健斗がいた。
「一緒に帰ってくれて、ありがとう。毎日、それが楽しみで学校に行けた。唯と仲良くなれて、本当に良かった!ありがとう!」
私の目から出てくる大粒の涙を、止めることは出来なかった。
「私も!!…健斗と、一緒に帰れて、本当に嬉しかったよ!ありがとう!」
健斗は大きく頷き、ニカッと笑った。
今までで、一番いい笑顔で。
その時、涙が健斗の周りに飛び散った気がした。

私はその場でしゃがみこむ。
涙が止まらなかった。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
私は叫び続けた。
三間健斗を想って。