鼻をかみ手早く顔を直し

コートを羽織りながら

バッグを引ったくった。

玄関でミュールに片足を入れたら

ドアの向こうに人の気配を感じて

無意識に息が止まった。

相手がベルを押しインターホンが鳴るまで

永遠のように長く思えた。

もう片方の足をミュールに差し入れながら

ドアノブを握って解錠し

ドアを外へ押した。

「忙しかった?」

その一言で崩れ折れそうになるのを心の中で叱咤し

最高の笑顔になっているようにと祈りつつ

「お誘いをありがとうございます。」

と言えた自分に脳裏で拍手喝采した。