その表情を見て思ったんだ。

進んでいなかったのは僕だけなんだって。


進む覚悟がとっくに出来ていた史桜は、僕が迷子にならないように待ってくれていただけ。

僕が進むと決めたら史桜はあっという間に見えなくなるんだろうって。



「……戻りたい」

「そう」

「でも……」



戻りたい。
その言葉に何一つ嘘はない。

でも…………



「ごめん、あの子は許せない……っ」

「……うん、分かってる」



“僕もだよ”

言わなかったけど、史桜の目はそう言っていた。



「僕……俺はね、もうこのままでもいいと思ってた」

「史桜?」

「此花と出会ったことは俺らにとって、人生の分岐点だって思えるくらいに衝撃だったんだ。

此花の周りにはいつの間にか人が集まってて、その輪の中に俺らもいつの間にか巻き込まれててさ……」



史桜はクスリと笑う。
久しぶりに見た。

史桜がこんなふうに笑うの。