今は思い出したくない。
隣に片割れがいないから。

きっと僕は僕を保てない。

粃もきっとそのことは分かっている。



「粃」

「ん?」

「いつか……乗り越えるから」

「……うん」

「その時はちゃんと会いに行くから」

「うん」

「伝えといてね」

「わかった」



粃が頷いたのを確認して立ち上がる。
ズボンについてしまった芝生を払ってぐっと伸びをする。

一度目を閉じて深呼吸をする。

その時はすぐ側にあるのかもしれない。
いつまでもこのままでいられない。

今を行きたい、今を生きたい。
過去にはもう戻らない。



「じゃあね、“粃ちゃん”」

「またね、“新田くん”」



だけどもう少しだけ。
僕のわがままに付き合って。

粃に背を向け教室へと足を動かす。



「強くなりたい」



忘れなくても笑えるように……