「この距離まで近づかないと分からないなんて、ちょっと弛んでるんじゃない?」




懐かしい声がして警戒を解く。
それと同時に少しだけほっとしたような気がした。

“あの人”によく似た空気を持つ彼女の側はとても落ち着く。
片割れや幼馴染みとは違う安心感。



「最近、やってないから」



だからかな。
口調がつい“昔の様”になってしまう。

口調でさえ互いに真似しなければ壊れてしまうほど参っていたのかと思わず苦笑した。



「“あの日”以来かしら、史桜に会うのは」

「そうだね、僕達が引っ越したから。
……2年ぶりかな」

「史桜、私の前では昔のままでいいわ。
というか、今の口調気持ち悪いから」

「随分な言い方だな」



文句を言いながら繕いをやめるのは、彼女が相手だからだろう。

元々僕の口調は間延びなんてしてなくて、どちらかといえば乱暴だと言われる部類だろう。

今じゃ一人称も僕で定着してしまっているけど、昔は違ったしね。

他人を敬称をつけて呼ぶこともなかった。

こう思い返すと随分と変わったものだな……。



「妃海に掻き乱されてるわね」

「アレはお前の管轄だろ、何とかしてよ」

「無理ね。
あの子の行動は予測できないもの」