『風華』

「…………なんだ」


総長様に向かい声をかけると、硬い声が返ってきた。

それはそうだろう。
自分の族の姫が、得体の知れない奴に姫だと言われている。

その上、その本人はそれが普通だと言うように受け入れているんだから。


『俺達にとってそこにいる火楼粃は姫だ。
それはあんたらと同じ意味を持つものであることに間違いはない』

「なら、粃はお前らのスパイ……ってことか」

『姫は姫だ。それ以外の何でもない。
その呼び方に慣れたせいでそれ以外では呼ばないだけだ。

勘違いするなよ。
今の姫を守っているのはあんたらだ』


姫はスパイなんかじゃない。
行く場所を失った姫が、自分で選んだ居場所。

己を見失うことなく、誰に言われることも無く選んだ道。

それを壊すことは許さない。
許されない。