鳳舞の言葉に同意する琳埜とは反対に、少し暗い顔をして鳳舞を見つめる琉飛。



「鳳舞……」



琉飛はすぐ隣にいる琳埜に聞こえない音量で小さく鳳舞の名前を呼ぶ。

鳳舞は2人の一歩後ろを歩いていた。
普通なら声は聞こえるはずもない。

実際に鳳舞の耳には琉飛が自分を呼んだ声は届いてはいなかった。

だが、鳳舞は悟る。
琉飛と鳳舞は所謂、幼馴染みという関係だ。

鳳舞にとって琉飛は己の過去を知り、“唯一”心を許せる友である。

だからこそ声が届かなくても、周りから見れば無表情であるその顔を見れば何を考えているか鳳舞には手に取るように分かったのだ。


「気にすんな」

「……っ、あぁ」



だから、鳳舞は琉飛を追い抜かす時に小さく呟いた。

その声色はいつもの気の抜けたものではなく、“琉飛の記憶の彼方にある幼馴染み”のものである。

その声を聞いて、琉飛はふと思う。
“こいつがこんな性格になってしまったのは自分のせいだ”……と。

しかし、それを言うと鳳舞はやる気のない顔を崩し、悲しい顔をすることを琉飛は分かっている。

その気持ちを押し止め、過ちを繰り返さないようにただひたすらに力を求める。

鳳舞の泣いた顔を見たのは“あの日”が最初で、その日以来1度たりとも涙を見ていないことに琉飛はどこか不安を感じていた。

本来なら琉飛が声をかけるべきなのだが、いつも鳳舞が先回りをしてその言葉を断ち切ってしまうものだから琉飛も遣る瀬無い気持ちで一杯であった。