「野球が嫌いになった、とかそんなんじゃねぇから!変わらず、これからも野球は好きだぜ?絶対」
刹那の静寂を、どのように受け取ったのかは知らないが、そいつは慌て出す。
そして、そっと鼻で息を吸い込むと、少し寂しさを含んだ表情になる。
そいつの目線は、何処を向いているのかは、わからない。
「…なんか、全部、高校で出しきった気がすんだ。毎日、辛い練習に耐えて…
こんなに死ぬほど頑張って、どうすんだって。本当に他の学校もこんなにしてんのか、って思った時、すげぇあったよ」
「あぁ」
「俺もだ」
共感を意味する言葉を、皆が口々に重ねていく。
あれほどの過酷な鍛練は、生涯、忘れることは出来ないのだろう。
血ヘドを吐くほど、苦しい思いも、たくさんした。
それぞれ、あの日々を思い返しているのだろう。
場がしんみり、としている。
しかし、そのような時に、この場に居る奴等、全員を共感させた本人が、反対のことを述べるときに使う言葉を発する。
それは、何かを弁解しようとしている様にも見えた。
「でも…やってきた事全部、意味があったって、今は思える。
結果は実際、出なかったけど、その場面、場面で成果を実感してた。今までの人生で一番、真剣に打ち込んだよ。
だから、次にまた新しいこと、探してみるよ。
そもそも、俺が引退まで残れたのは、みんなのおかげだ!
みんな…今まで本当に、ありがとうな」
「お前っ、気が早ぇよ!!」
「場をしんみりさすなよ!なんか寂しいだろうが!」



