未だ泣き止みそうにない彼女を見て、俺も未だ落ち着かずにいた。
いや、正確には、彼女は泣いているのだが、泣いてはいない。
微笑んではいるのだが、未だに瞳が潤んでいる。
俺には、どうすることも出来はしない。
ただ、声をかける以外の方法が、思い当たらないのだ。
声をかけることしか。
「あの…、本当にみんな、盛り上がっていましたよ。俺は…まだ聴いていたかったです」
俺がそう言うと、泣き顔を隠すように俯きながら、頭を何度も下げてくれる。
やはり、俺ではどうしようもないのか。
すると、彼女は小さく震えたような声で、確かにこう言ったのだ。
「ありがとうございます。江波くんにそう言っていただけると、挑戦して良かった、と心から思えます」
その後、彼女は自らで、その涙を拭い、しっかりと笑ってくれた。
「初お披露目…大成功、おめでとうございます」
自分でもなぜ今、これを言っているのかわからなかったが、そのようなことはもう、どうであろうと良いのだ。
彼女が心から笑ってくれれば、もうそれだけで十分なのだ。
俺は彼女に、もっと笑ってほしいと思った。
彼女にリョウさん以外に好きな人が居ようとも、今の俺には関係ない。
こうして、俺の後をついてきてくれた時点で今は、彼女を楽しませるのは、俺の役目だ。
今回ばかりは、見知らぬ他人のことなど、気にするものか。