思い出すだけで嬉しくて、目に熱いものが込み上げてまいります。

大勢の拍手は、まるで受け入れていただけているようで、とても嬉しかったのです。

ですが、それ以上に、江波くんの存在が大き過ぎました。

これほどにも、江波くんが好きなのです。

その想いを漂わせた、それらしき行動に出ることはいくらでも出来ますのに、直球勝負をすることには、酷く怖じ気づいてしまうのです。

なかなか、一歩が踏み出せないのです。

江波くんには、何度も背中を押していただいているといいますのに。

江波くんを思うだけで、苦しくなるのです。



「…ごめんなさい、リョウさん」



人生で初めてとなる、これは浮気です。

リョウさんにも、江波くんにもそれぞれの意味で、心苦しくなるのです。

どちらも私には、選ぶことは出来ません。

私は、どうしたら良いのでしょう。

思い悩み、涙が溢れました。



「リョウさん…何か、おっしゃってください」



しかし、リョウさんは楽器ですから、口を利くことはありません。

いくら私でも、それくらいはわかっております。

ですが、心は通じ合っているはずなのです。

たった今は、どのようなものでも助け船がほしいのです。