2曲目の伴奏は、テープを使用します。

操作は、音楽の先生にしていただきます。

音楽の先生は、ピアノの椅子から立ち上がり、私に「頑張れ」と小声でおっしゃってくださいました。

そして、舞台裏へと戻っていかれました。

私は、それに深くお辞儀をいたしました。

2曲目は、吹奏楽の世界では、きっとお馴染の曲です。

80年代に発表された日本のバンドの曲を、吹奏楽で演奏するために、サンバ調にアレンジしたものです。

裏方に移っていただいた先生へ、アイコンタクトを送ります。

先生が頷き、ボタンを押す動作が見えました。

軽快な打楽器が聞こえてきました。

しかし、少し様子が可笑しいのです。

事前の練習と、違うことが起きています。

それは、周りの皆さんも気づかれているようでした。



「あ、この曲知ってる!」

「いや、その前に音、大き過ぎない?」

「これじゃあ、サックスの音がかき消されて、聞こえないでしょ」

「なんだ?機械の操作ミスか?」



私も、口々に言う皆さんの声と、同じようなことを思っておりました。

しかし、そう思ったのも一瞬です。

豪快に全てを鳴らしてしまえば、きっと皆さん、退屈されないだろう、とも思ったのです。

咄嗟に見つけた歌唱用のスタンドマイクを、私の前まで持ってきて、それの高さを一気に下げました。

そして、私は空気を鼻から、口から一気に吸い上げました。

それから、自分で吹き始めても、驚いておりました。

意外にもマイクが無くとも、音は十分に出るものだ、と!

私は、調子に乗ってしまい、舞台の端から端まで歩き回っておりました。

即興の振りも入れたりだなんてして。

今日の私は、自分で思うほどに、別人のようでありました。