「江波先輩?どうしたんすか?」



この場に存在する、現実の声に引き戻される。



「あ…いや、すまん。スウィング、見せてくれ」

「ありがとうございます!!」



満面の笑みを浮かべる後輩につられて、つい笑ってしまう。

相変わらず、こいつは生き生きとした顔でよく笑う。

同じポジションだった後輩なのだが、俺はとても良い奴だ、と思っている。

割と仲も良い方だ。



「いきます!」

「おう」



後輩が、勢いよくバットを振る。



「…悪くはないが、フォームに意識がいき過ぎて、振り抜けていないぞ」

「つまり、格好をつけるな!って、ことっすね!!」

「ん?お、おお。そうだな」

「格好悪くても頑張る方が格好いい、ってことっすね!!」

「なるほど。それは、名言だ」

「それ、本当に思っていますか?先輩!」



こいつは、非常に話し方が巧みだ。

これだけ人を楽しませることが出来るのは、こいつの得手である。

プレイでは、いつも見ている方は、気が気ではないのだが。

お互いに笑い合っていると、微かにだが、何かが聞こえた。

それはどこかで聞き馴染のある、心地の良い声の様なものであった。

それは、後輩を指導している間、絶え間なく響いていた。