気がつけば、日も傾き出しています。

江波くんは立ち上がると、私を見下ろしました。



「あの、そろそろ帰りますか?」

「そうですよね。江波くんは、早く帰りたいのですよね…」

「えっ、あ、い、いやっ!そういうわけでは…!」



焦る可愛らしい彼を見て、私は笑ってしまいました。

彼の顔は汗が滲み、真っ赤に染まっていました。



「冗談です」

「あ、あなたも人が悪いな…」

「ふふっ、ごめんなさい」



少し意地悪を言ってしまった申し訳など、いくらでもございました。

彼の反応は、いつもあまりにも、可愛らしいから、こういったやり取りが楽しく、つい…

そして、私が帰りたくなかったのです。

はしたないことだとは思いますが、このまま今日、別れてしまうのは勿体無いなどと思ってしまったのです。



「あの…日も落ちてきているので、送ります」



私はその言葉に、はじめ驚きました。

そして、とても嬉しく想いました。

しかし、私には勿体無いのです。



「いいえ、結構です。そのお気持ちだけ頂戴しておきます」



私のその言葉に、江波くんは呆然としてらっしゃいました。

今日の公園にて、これ程にも幸せな時間を、このお方と過ごせたのです。

おまけに、一歩を踏み出す素敵な案まで頂いて。

私にこれ以上は、やはり勿体無いのでしょう。

江波くんは、そうですか、と一つ呟くと、少し微笑まれました。



「…では、気を付けて帰ってくださいね」



やはり今日の出来事は、私にはあまりにも勿体無いのです。

幸せで、仕方がありませんでした。







Scene 13  遅くても一歩