「あの、これ、見ました。勧誘ですか」
そう言って差し出した江波くんの手には、私が先ほどから配布しているチラシがありました。
「ええ、やはり一人は淋しいですから」
「どうかしたんですか」
私が頭の中で考えていた彼の言葉と実際とが食い違い、私は呆然としてしまいました。
改めて、彼の顔を見上げると、視線がぶつかり合ったのです。
すると、彼はやはりぎょっ、としてみせて、すぐさま目を逸らしてしまいました。
しかし、もう傷付きません。
いつものことであるので、馴れることに決めたのです。
ですから、江波くんに目を逸らされても、私はこうしてじっ、と彼を見つめ続けます。
こうしていれば、相変わらず江波くんの顔面は、耳は、見る見るうちに真っ赤に染まってゆくのです。
彼を見ていて、飽きることはありません。
彼は私に凝視され続け、何故か動けずにしばらくはじっと耐えていました。
しかし、とうとう耐え切れずに江波くんは大きく、大袈裟に息を吐き出しました。
「何だか、その…今日は、らしくありませんね」
「え…」
「いつもはもっと…いや、どんな時でも元気に突っ走っている印象があったので、何というか…」