公衆便所の陰に隠れるようにして、通話を始める。



「…もしもし。何だよ」

『おい。上手くいったかー?』



電話口の向こうには、チームメイト兼友人らの声で溢れていた。

近況の報告を求めているのか、邪魔をしたいだけなのか。

この電話は、一体どういうつもりなのだろう。



「…上手くいくも何も、まだ言えていない」

『早く言っちまえって』

「そ、そんなこと言われても…」



俺がたじろいでいると、電話口の向こうから「代われ」と一言、聞こえた。

その後、直ぐに電話の声が変わる。



『お前、そんな直ぐに後悔するような奴だったか?いつも駄目もとで嫌々にでも一回、自分からやってみてただろ。どんな大事なことも、始めるときは勢いだっただろ?』



すると、今度はその声の後ろから「ちょっと何言ってるか、よくわかんないんだけど」とよく聞き覚えのある声が、電話を引き継いだらしい。

また毒を吐かれるのか、と覚悟した。



『ごめんね。こいつ、熱くなってるみたいだからさ。俺が代弁する』



思ったよりも、手加減してくれている様子で、俺は安心していた。

しかし、俺も甘かった。



『今、言わなきゃ、いつ言うの』

「…え」

『いま、いわなきゃ、いついうつもりなんですか』

「…い、今…」

『よくできました。てことで、良い報告を持って来なきゃ、家に入れてあげないから』



まるで母親、母ちゃんのような口ぶりで、そいつは言う。



「ちょっと待て。お前ら、今どこに居るんだ…?」

『ん?お前の家』

「は…?」



奴の後ろからは俺の母親の「お茶、置いていくわね」という声と「お邪魔してまーす」などと気の抜けた声が聞こえた。

何ということだ。

俺の自宅に奴らが上がり込んでいることは、確実なようだ。



『そういうことだから、頑張ってー』

「あっ、おいっ!ちょっと…」



能天気な声を聞いていたはずだというのに、いつの間にやら、電話の繋がりは途切れていた。

何という奴らだ。

このままでは、家に帰宅することは、不可能ということである。

俺は、決心するしかなかったのだ。