すると、友人は手のひらを広げた状態で、俺の机を一度叩いた。
その音に、俺の体は僅かに一瞬、強張る。
そして、机を叩いた張本人は、俺を睨む。
「どう考えても、今日しかねえだろ!一緒に帰ってこい。んで、告れ!」
「…でも、みんなと帰るのだって──
「そんなもん、俺たちとは車校で毎日、嫌って言うほど会うだろ?!」
「行ってこいって」
皆に押し負かされ、いや、皆に背中を押されてか、徐々に俺の中で何かが動き出す。
チームメイト兼友人らの顔を、改めて見回す。
相変わらず、仏頂面の奴もいる。
顔の前で拳をつくりながら「江波ならいける」とエールを送ってくれる奴もいた。
黒い笑みをしている奴もいたが、確と笑って見送ってくれる奴等も、居る。
俺は怖じ気づいて、ここに居留まってしまうことの方が、奴等に面目が立たないと思った。
「みんな、ごめん。ありがとう。俺、行ってくる」
「おう。そんで良い報告、聞かせろよ」
「で、出来るだけ努力する…」
「馬鹿野郎!!絶対だ!」
こうして俺は、教室を駆け足で去った。
これが萩原さんを誘うことになった、成り行きだ。
そして、見事に彼女を誘うことに成功した。
おまけに、これから行くという、練習に付き合っても良いというのだ。
今日は何と幸運が続くのだろう。
上機嫌のまま、公園に到着する。
彼女が準備しているのを見届けていた。
練習が始まれば、一気に彼女の世界へ引きずり込まれる。
優しい音だ。
一つの音を伸ばす、この単調な基礎の練習でさえ、魅了されてしまう。
しばらく酔いしれていると、俺のズボンのポケットの中で携帯電話が震えた。
一度は無視してしまおうか、迷ったところだ。
しかし、あまりにも呼び出しがしつこいため、電話に出ることにした。
萩原さんは練習に集中しているようだったので、邪魔をするのも悪いと思い、静かにその場を離れた。



