めはくちほどに


「君はどうなの?」

「私ですか?」

「好きな人はいるの?」

まるで大人が小学生に聞くような質問だ。
いや、この人から見たら10歳くらい下の私なんて子供のようなものだけれど。

そんな子供のことを好きになるなんてあり得るだろうか。

好きって、人としてとか部下としてってこと?

待って、人として好きな人に指輪がどうとかする?

分からない。この人の考えることが分からない。

「好きな人……社会人になってからそういうのとは縁がなくて」

「じゃあ僕とかはどうかな。ほら、良い物件だよ」

手を広げてみせた副社長を見て、私は口を開けそうになった。