めはくちほどに


「副社長、私に何か用があったんですか?」

コール音が聞こえる。副社長は立ち止まって私を見ていた。

そして、少し微笑んだ。

「紺野さんと指輪を買いに行こうと思って」





家までの道を副社長と歩く。私はとても迷っていた。
道ではなく、この関係の行く末を。

「……私の自意識過剰だったら申し訳ないんですけれど、副社長は私のことを好きなんですか?」

結婚とか、指輪とか、ぽんぽんそんな単語を口にする人だと思っていたけれど。

「うん」

「え、いつ、どこが」

矢継ぎ早に尋ねる。一か月前は話をしたこともない相手だ、お互いに。