めはくちほどに


帰宅ラッシュ手前とはいえ、座れるほど空いてもいない電車内。下りの電車なのだからそれはいつものこと。

「もしかして体調悪いの? 大丈夫?」

「大丈夫です。もうすぐお盆だな、と思って」

「ああ、ご両親の……」

つり革を掴む。副社長は口を噤んでしまった。あ、こんな暗い話題をだしたら気まずいだけだ。

あれ、そういえば副社長はこちらに何の用があるのだろう。

「そういえば、副社長はこれからどこへ? 飲みですか?」

「いや、紺野さんの姿見えたからついてきちゃった」

それは一歩間違えるとストーカーの台詞になる気がする。